【第5回】中小企業が目指すべき労務管理の姿とは
社労士は企業に最も近い外部の伴走者である
私は社労士として、自分の役割を「企業に最も近い外部の伴走者」だと位置づけています。手続きを代行するだけの存在ではなく、経営者と一緒に考え、悩み、解決策を探す—そんなパートナーでありたいと考えています。
年次有給休暇の問題一つを取っても、単に「法律ではこうなっています」と伝えるだけでは、現場は動きません。経営者が抱える不安や負担を理解し、従業員の立場にも立ち、双方が納得できる現実的な解決策を一緒に作り上げていく—そのプロセスこそが、本当の意味での労務管理支援だと考えています。
特に北海道の中小・零細企業は、大企業のような充実した人事部門を持っているわけではありません。経営者が営業から経理、労務まですべてを担っているケースも少なくありません。だからこそ、外部の専門家が実務に即した形で伴走することが、企業の持続的な成長にとって不可欠なのです。
人と組織の問題解決支援こそが本質である
社労士の業務というと、多くの方は「社会保険の手続き」や「給与計算」をイメージされるかもしれません。もちろん、それらも重要な業務ですが、私が最も大切にしているのは、人と組織の問題解決支援です。
年次有給休暇のトラブルも、突き詰めれば「人」の問題です。経営者と従業員の間の信頼関係が築けていない、コミュニケーションが不足している、組織の風土に問題がある—こうした根本的な課題に向き合わない限り、いくら制度を整えても、トラブルは繰り返されます。
私が企業支援で大切にしているのは、制度や規則を整えることと並行して、組織の人間関係の質を高めることです。経営者が従業員の声に耳を傾けているか、従業員が安心して意見を言える環境があるか、心理的安全性が確保されているか—こうした目に見えにくい部分にこそ、組織の本質があると考えています。
中立性と公平性を持ちながら組織全体を見渡す視座
社労士は、企業と契約を結ぶ以上、企業側の立場に立つことが多いのは事実です。しかし同時に、労働法令という公的なルールを守らせる役割も担っています。この二つの立場の間で、中立性と公平性を保つことは、決して容易ではありませんが、極めて重要なことだと考えています。
例えば、経営者が「この従業員は困る」と訴えてきたとき、一方的に経営者に肩入れするのではなく、従業員側の事情や主張も公平に考慮する必要があります。逆に、従業員から相談を受けた場合も、経営者の置かれた状況や経営上の制約を理解した上で、現実的なアドバイスをすることが求められます。
組織は、経営者と従業員の双方が協力して初めて成り立つものです。どちらか一方の利益だけを追求するのではなく、組織全体の健全性と持続可能性を見据えた視座を持つこと—それが、真の意味での組織支援だと考えています。
法律を現場で機能する形に落とし込む
労働基準法は、すべての企業が守るべき最低基準を定めたものです。しかし、法律の条文をそのまま現場に当てはめようとしても、うまく機能しないことがあります。業種、規模、地域性、企業文化—それぞれの現場には固有の事情があり、それを無視した画一的な対応では、形だけの法令遵守になってしまいます。
私が目指しているのは、法律を現場で本当に機能する形に落とし込むことです。例えば、年次有給休暇の取得を促進するにしても、「とにかく取らせればいい」というものではありません。業務の繁閑を考慮し、代替要員の確保策を考え、従業員間の公平性を保ちながら、無理なく運用できる仕組みを作る—そこに専門家としての価値があると考えています。
法律は守らなければなりませんが、それを「負担」として捉えるのではなく、「従業員が安心して働ける環境を作るための道具」として前向きに活用することが大切です。そのためには、経営者の理解と協力が不可欠であり、私たち社労士はそれを引き出すための対話と提案を続けていく必要があります。
社会全体に良い影響を広げる存在であるべき
最後に、私が社労士として最も大切にしている信念についてお話しします。それは、「社会全体に良い影響を広げる存在でありたい」ということです。
一つ一つの企業が適切な労務管理を行い、従業員が安心して働ける職場を作ることは、その企業だけでなく、地域社会全体の幸福につながります。北海道の中小企業が元気になれば、そこで働く人々の生活が安定し、家族が幸せになり、地域経済が活性化します。
年次有給休暇の問題も、単なる「法律上のトラブル」として捉えるのではなく、「働く人々の健康と生活の質を守るための重要な制度」として捉えるべきです。適切に休暇を取得できる環境は、従業員の心身の健康を守り、生産性を高め、結果的に企業の持続的な成長にもつながります。
私は、これからも北海道の中小・零細企業の皆様に寄り添い、一緒に考え、現実的な解決策を提案し続けていきます。労務管理は決して難しいものではありません。一歩ずつ、着実に、組織を良くしていく—その積み重ねが、やがて大きな変化を生み出すのです。
もし今、年次有給休暇のことで悩んでいる経営者の方がいらっしゃれば、どうか一人で抱え込まず、専門家に相談してください。問題は必ず解決できます。そして、その先には、より働きやすく、より強い組織が待っています。

