【第3回】年次有給休暇トラブルを防ぐための予防策
就業規則で有給休暇のルールを明確にする
年次有給休暇に関するトラブルを防ぐための第一歩は、就業規則に明確なルールを定めることです。就業規則は、企業と従業員の間の「約束事」を明文化したものであり、労務管理の基盤となります。常時10人以上の労働者を使用する事業場では作成と届出が義務付けられていますが、私は10人未満の小規模事業者であっても、就業規則またはそれに準ずる社内ルールを整備することを強くお勧めしています。
就業規則に定めるべき事項は、まず年次有給休暇の付与基準です。正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトについても、所定労働日数に応じた付与基準を明記します。次に、申請方法と期限です。「〇日前までに所定の様式で申請する」といった具体的な手続きを定めることで、業務調整がしやすくなります。
また、時季変更権の行使基準についても、可能な限り明確にしておくことが望ましいです。「事業の正常な運営を妨げる場合」という抽象的な表現だけでなく、「代替要員の確保が困難な場合」「業務の繁閑を考慮し、他の日への変更を提案する」など、具体的な判断基準を示すことで、経営者側も従業員側も納得しやすくなります。
年次有給休暇管理簿の適切な整備
2019年4月からは、すべての企業に対して「年次有給休暇管理簿」の作成・保存が義務付けられました。これは、労働者ごとに、有給休暇の基準日、付与日数、取得日数、取得時季を記録するものです。3年間の保存義務があります。
この管理簿は、単に法律上の義務だから作るというものではありません。適切に管理することで、「誰がいつ、何日有給を取得したか」「残り日数は何日か」「年5日の取得義務を満たしているか」が一目でわかるようになります。トラブルが発生した際にも、客観的な記録があれば、感情的な対立を避け、事実に基づいた対応ができます。
私が支援する企業では、Excelなどで簡単に管理できるフォーマットを提供し、毎月の給与計算と合わせて更新する仕組みを作ることをお勧めしています。特に、年5日取得義務については、基準日から1年以内に5日取得できていない従業員がいないか、定期的にチェックする体制を整えることが重要です。
計画的付与制度の活用
年次有給休暇の「計画的付与制度」は、企業にとって非常に有効な予防策です。これは、労使協定を結ぶことで、年次有給休暇のうち5日を超える部分について、計画的に取得日を割り振ることができる制度です。
例えば、製造業であれば夏季休暇や年末年始に合わせて計画的に付与する、サービス業であれば閑散期に計画的に取得させるなど、業種や事業の特性に応じた運用が可能です。計画的付与を行うことで、繁忙期の突然の有給申請を減らし、業務への影響を最小限に抑えることができます。
また、年5日の取得義務を確実にクリアできるという点でも、計画的付与は有効です。ただし、計画的付与を行う場合には、必ず労使協定を締結し、従業員の意見を十分に聞いた上で実施することが大切です。一方的に日程を決めるのではなく、従業員の希望も踏まえた調整を行うことで、納得感のある運用ができます。
時季指定義務への確実な対応
年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者については、使用者が時季を指定して年5日取得させることが義務付けられています。これを怠ると、労働者1人あたり30万円以下の罰金が科される可能性があります。
私が企業支援で重視しているのは、この義務を単なる「罰則を避けるための対応」として捉えるのではなく、従業員の健康と働きやすさを守るための仕組みとして前向きに活用することです。時季指定を行う際には、まず従業員本人の希望を聞き取り、それを尊重する形で指定するのが望ましいです。
具体的には、年度の初めに従業員と面談を行い、「今年はいつ頃休暇を取りたいか」を確認します。その上で、業務の繁閑を考慮しながら取得時季を調整していくのです。このプロセスを丁寧に行うことで、従業員との信頼関係が深まり、結果的に職場全体の心理的安全性が高まります。
社内コミュニケーションの改善
制度や規則を整えることは重要ですが、それだけではトラブルは防げません。私が最も大切だと考えているのは、日常的な社内コミュニケーションの質です。有給休暇が取りづらい職場の多くは、「言いにくい雰囲気」があります。
経営者や管理職が率先して有給休暇を取得する、取得した従業員を責めない、むしろ計画的に休むことを評価する文化を作ることが重要です。また、業務の属人化を避け、誰かが休んでも業務が回る体制を整えることも必要です。
次回は、それでもトラブルが発生してしまった場合の対応策について、具体的に解説します。

