【第1回】年次有給休暇をめぐるトラブルが増えている理由
なぜ今、有給休暇のトラブルが注目されているのか
私は、北海道の中小・零細企業を中心に労務管理の支援を行っておりますが、特に相談が増えているのが「年次有給休暇」に関するトラブルです。経営者の方々からは「突然の有給申請にどう対応すればいいのか」「繁忙期に休まれると困る」といった声を、一方で従業員側からは「有給を取らせてもらえない」「理由を聞かれて取りづらい」という不満を耳にします。
このような状況が生まれている背景には、2019年4月に施行された働き方改革関連法による「年5日の年次有給休暇取得義務化」があります。これは、使用者に対して年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に、毎年5日については時季を指定して取得させることを義務付けた制度です。違反した場合には、労働者1人あたり30万円以下の罰金が科される可能性があるため、企業にとっては決して軽視できない問題となっています。
法令遵守は絶対に譲れない基盤である
私が労務管理において最も重視しているのは、法令遵守という絶対的な基盤です。年次有給休暇は労働基準法第39条で定められた労働者の権利であり、企業の規模や業種に関わらず、すべての事業者が守らなければならないルールです。「うちは小さい会社だから」「人手が足りないから」という理由は、法律上一切通用しません。
しかし同時に、私は単に「法律がこうだから従いなさい」と一方的に伝えることが社労士の役割だとは考えていません。法令遵守は大前提としながらも、現場で実際に機能する形に落とし込み、経営者と従業員の双方が納得できる着地点を見つけることこそが重要だと考えています。
予防と対応の両輪で労務リスクを支える
年次有給休暇のトラブルは、多くの場合「起きてから対応する」のでは遅いのです。労働基準監督署への申告、未払い賃金請求、最悪の場合には訴訟にまで発展するケースもあります。こうした事態を避けるためには、問題が顕在化する前に潜在的なリスクを捉え、予防策を講じておくことが不可欠です。
私が企業支援において大切にしているのは、「予防」と「発生時対応」の両輪です。就業規則や有給休暇管理簿の整備、社内ルールの明確化といった予防策を講じながら、万が一トラブルが発生した際には、法律と現場の感情の両方を踏まえた対応を行うことが求められます。
北海道の中小企業だからこそ直面する課題
北海道の中小・零細企業には、独特の事情があります。季節による業務の繁閑差が大きい業種や、少人数で業務を回している現場では、従業員一人が休むことの影響が都市部の大企業とは比較にならないほど大きいのです。また、家族的な経営が多く、「言わなくてもわかるだろう」という暗黙の了解で運営されてきた職場も少なくありません。
しかし、時代は確実に変化しています。従業員の権利意識は高まり、インターネットで簡単に労働法の知識が得られる今、「今までこうだったから」は通用しなくなっています。だからこそ、経営者の皆さんには、現実を直視し、適切な労務管理体制を整えていただきたいと考えています。
次回は、実際に企業で起こりがちな年次有給休暇のトラブル事例について、具体的にご紹介します。

