【第2回】実際に起こった年次有給休暇トラブルの典型事例
ケース1:「理由を言わないと有給は認めない」と言われた
ある製造業の事業所で、従業員が有給休暇を申請したところ、上司から「何のために休むのか理由を言わないと許可できない」と言われたという相談がありました。従業員は私用であることを伝えるのをためらい、結局休暇を取得できなかったというケースです。
このような対応は、労働基準法に違反する可能性が極めて高いです。年次有給休暇は、労働者が請求した時季に与えなければならないのが原則であり、理由を問う法的根拠はありません。使用者が時季変更権を行使できるのは「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られており、単に「理由がわからないから」では認められないのです。
私はこうした相談を受けるたびに、経営者の方にお伝えしています。「従業員に理由を聞くこと自体が、有給休暇を取りづらくさせる原因になっている」と。もちろん、業務調整のために休暇の予定を把握したい気持ちはわかりますが、それと「理由を聞く」ことは別問題です。企業は、理由を問わずに有給休暇を管理できる体制を整える必要があります。
ケース2:繁忙期だからと一方的に却下された
飲食業を営む事業主から、「繁忙期に従業員が有給を申請してきたが、どう考えても人手が足りないので却下した。これは問題ないか」という質問を受けたことがあります。経営者としては当然の判断だと思われたのでしょうが、これも法的には大きなリスクを抱えた対応です。
確かに、使用者には「時季変更権」という権利があります。しかし、これは単に「忙しいから」という理由だけで行使できるものではありません。時季変更権を適法に行使するには、代替要員の確保の努力をしたか、他の日への変更を提案したか、業務の優先順位を見直したかなど、様々な事情が考慮されます。
私が企業支援で重視しているのは、こうした法律の建前だけでなく、現場で実際に機能する運用を作ることです。例えば、繁忙期が予測できる業種であれば、事前に計画的な有給取得を促す、ローテーションを組むなど、予防的な対応を講じておくべきなのです。問題が起きてから対応するのではなく、起きないような仕組みを作ることが、結果的に経営者にとっても従業員にとっても最善の策となります。
ケース3:退職時にまとめて有給消化を申請された
退職を控えた従業員が、残っている有給休暇20日分をすべて消化したいと申し出たケースです。経営者は「引き継ぎもあるし、そんなに一度に休まれては困る」と困惑されていました。このような「退職時の有給消化」は、多くの企業で頭を悩ませる問題です。
法律上、労働者には退職時であっても有給休暇を取得する権利があります。使用者が時季変更権を行使しても、退職日を超えて時季を変更することはできないため、事実上、退職時の有給消化を拒否することは困難です。
ここで重要なのは、「なぜそのような事態になったのか」という根本原因です。多くの場合、在職中に有給休暇を取得しづらい雰囲気があったり、実際に取得できなかったりした結果、退職時にまとめて請求されるという構図があります。つまり、日頃から適切に有給休暇を取得できる環境を整えておけば、こうした事態は防げるのです。
ケース4:有給休暇の付与日数を間違えて管理していた
ある小売業の事業主から、「従業員から『有給日数が少ないのではないか』と指摘されたが、どう計算すればいいのかわからない」という相談を受けました。確認してみると、そもそも有給休暇管理簿が作成されておらず、付与日数も正確に把握できていない状態でした。
年次有給休暇の付与日数は、勤続年数や所定労働日数によって法律で細かく定められています。正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトにも、所定労働日数に応じた有給休暇を付与しなければなりません。また、2019年4月からは「年次有給休暇管理簿」の作成が義務化されており、基準日、付与日数、取得日数などを記録しておく必要があります。
このような基本的な管理ができていない企業は、実は少なくありません。特に小規模事業者では、「そもそも有給休暇の管理方法を知らない」というケースもあります。私は、こうした企業にこそ寄り添い、現実的に運用できる形で労務管理体制を整えるお手伝いをすべきだと考えています。
次回は、これらのトラブルを防ぐために企業が取るべき具体的な予防策について解説します。

