【連載第5回・最終回】よくある質問と成功事例から学ぶ運用のコツ
連載を振り返って
この連載では、全5回にわたって、就活ハラスメント防止義務化について解説してきました。
第1回: 就活ハラスメントとは何か、その実態と問題の本質
第2回: 2025年法改正の具体的な内容と企業の義務
第3回: 中小企業が見落としがちなリスクと影響
第4回: 今すぐ始めるべき5つの対策ステップ
最終回の今回は、経営者や人事担当者から寄せられる「よくある質問」にお答えし、実際の成功事例から学ぶ運用のコツをお伝えします。
Part 1: よくある質問(FAQ)
社労士として、多くの経営者や人事担当者から寄せられる質問にお答えします。
Q1. 施行はいつからですか? まだ時間はありますか?
A. 2025年6月11日の公布から1年6ヵ月以内の政令で定める日とされており、遅くとも2026年12月11日までには施行されます。
「まだ時間がある」と思われるかもしれませんが、就業規則の改定、相談窓口の設置、社員研修など、やるべきことは多く、実際には相当な時間がかかります。
今すぐ準備を始めることを強くお勧めします。
Q2. パワハラは今回の法改正に含まれますか?
A. いいえ、今回の法改正で義務化されるのはセクシュアルハラスメントの防止措置のみです。
ただし、パワハラも就活ハラスメントの一種として問題視されています。セクハラ対策と併せてパワハラ対策も行うことで、包括的なハラスメント防止体制を構築できます。
Q3. 違反したら罰金がありますか?
A. 罰金や懲役といった刑事罰はありません。
ただし、国から勧告を受けても従わない場合、厚生労働大臣が企業名を公表できるとされています。
企業名が公表されれば、採用活動への致命的なダメージ、既存社員の士気低下、取引先からの信用失墜など、金銭的損失以上の深刻な影響があります。
Q4. 採用人数が少ない会社も対象ですか?
A. はい、企業規模や採用人数に関係なく、すべての企業が対象です。
年に1人しか採用しない企業でも、アルバイトしか採用しない企業でも、採用活動を行うすべての企業に義務が課されます。
Q5. 相談窓口は社内の人事部でもいいですか?
A. 法的には可能ですが、社外の専門家を窓口にすることを強く推奨します。
学生にとって、「採用担当者に、採用担当者のハラスメントを相談する」のは非常にハードルが高いからです。
社外の社労士や弁護士を窓口として設定する、業界団体の窓口を案内するなど、学生が安心して相談できる体制を整えましょう。
Q6. 社労士に相談するメリットは?
A. 社労士は、労働法や人事労務の専門家です。
【社労士に相談するメリット】
就業規則の作成・改定を代行してくれる
法改正の最新情報を提供してくれる
相談窓口として機能してくれる
ルール作りのサポートをしてくれる
社員研修を実施してくれる
対応マニュアル作成をサポートしてくれる
万が一ハラスメントが起きた時、調査・対応をサポートしてくれる
費用はかかりますが、「時間を買う」「専門知識を買う」「安心を買う」という投資です。
Q7. 就業規則の改定にはいくらかかりますか?
A. 社労士に依頼する場合、就業規則の改定は3万円〜10万円程度が相場です。
「高い」と感じるかもしれませんが、ハラスメント問題が起きた時の損失(採用停止、評判低下、社員の離職)と比べれば、はるかに安い投資です。
Q8. OB・OG訪問は禁止すべきですか?
A. 禁止する必要はありませんが、明確なルールを定めることが重要です。
【推奨ルール例】
面談は原則、社内またはカフェなど公共の場で実施
1対1での面談は避け、複数名で対応
夜間や飲酒を伴う場での面談は禁止
学生の連絡先を個人的に保存しない
ルールを定めることで、社員も安心してOB・OG訪問に対応できます。
Q9. 面接で「結婚の予定は?」と聞くのはダメですか?
A. はい、女性にだけそのような質問をすることは、男女雇用機会均等法違反であり、セクハラに該当します。
「結婚後も働く意思があるか確認したかっただけ」という言い訳は通用しません。男性にも同じ質問をしていますか?
性別、恋愛、結婚、出産に関する質問は、面接では避けるべきです。
Q10. 内定者に課題を出すのはパワハラですか?
A. 課題の内容と量によります。
適度な事前学習や準備を促す課題は問題ありませんが、過度な課題や毎日の報告を強要することは、パワハラに該当する可能性があります。
特に、「課題をやらないなら辞退してください」といった威圧的な発言は、完全にアウトです。
Part 2: 成功事例から学ぶ運用のコツ
実際に就活ハラスメント対策を成功させた企業の事例をご紹介します。
【事例1】製造業A社(従業員30名)
取り組み内容
顧問社労士を相談窓口として設定
採用ページに「当社はハラスメント防止に真剣に取り組んでいます」と明記
OB・OG訪問は原則禁止、代わりに会社見学会を実施
成果
学生から「安心して選考を受けられた」というフィードバック
内定承諾率が前年比20%向上
社員のコンプライアンス意識が向上
ポイント
OB・OG訪問を禁止するのではなく、「会社見学会」という形で、会社主導の接触機会を設けることで、ハラスメントリスクを抑えながら、学生との交流を実現しました。
【事例2】IT企業B社(従業員15名)
取り組み内容
厚生労働省の無料研修動画を活用して社内研修を実施
面接は必ず2名以上で対応するルールを徹底
面接後に「今日の面接で不快に感じたことはありませんでしたか?」とフィードバックを求める
成果
面接官の意識が大きく変化
学生からの評価が向上(口コミサイトの評価がアップ)
優秀な人材の採用に成功
ポイント
面接後にフィードバックを求めることで、学生に「この会社は本気でハラスメント防止に取り組んでいる」という印象を与えることができます。また、問題があれば早期に発見できます。
【事例3】サービス業C社(従業員50名)
取り組み内容
就業規則を全面的に見直し、ハラスメント防止規定を追加
外部のハラスメント相談サービスと契約
内定者懇親会を日中、飲酒なしで実施
成果
女性の応募者数が増加
内定辞退率が減少
社員の定着率が向上
ポイント
内定者懇親会を「夜の飲み会」から「日中のランチ会」に変更することで、学生が安心して参加できるようになりました。「飲み会がないなんて寂しい」という社員の声もありましたが、結果的には内定承諾率が上がり、採用コストも削減できました。
Part 3: 運用のコツ 成功する企業の5つの共通点
成功している企業には、共通する特徴があります。
コツ①: トップのコミットメント
「経営者が本気で取り組んでいる」──これが最も重要です。
経営者自身が「当社はハラスメントを絶対に許さない」というメッセージを発信することで、社員の意識が変わります。
コツ②: 形だけでなく、実効性を重視
「相談窓口を設置しました」と言いながら、実際には機能していない企業もあります。
形だけ整えるのではなく、「本当に学生が相談できる体制か?」「社員が本当に理解しているか?」を常にチェックしましょう。
コツ③: 定期的な見直しと改善
一度対策を講じたら終わり、ではありません。
定期的に運用状況をチェックし、問題があれば改善する。PDCAサイクルを回すことが重要です。
コツ④: 社員を巻き込む
「人事部が勝手に決めたルール」では、社員は守りません。
ルール作りの段階から社員を巻き込み、「なぜこのルールが必要なのか」を共有することで、自発的な協力が得られます。
コツ⑤: ポジティブなメッセージを発信
「ハラスメント禁止」という否定的なメッセージだけでなく、「安心して働ける職場づくり」「学生に選ばれる企業へ」といったポジティブなメッセージを発信しましょう。
前向きな取り組みとして位置づけることで、社員のモチベーションも上がります。
Part 4: これからの採用活動に求められること
法改正への対応は、単なる「義務」ではありません。
これは、採用ブランディングの大きなチャンスです。
Z世代が求める企業像
Z世代の学生は、給料や福利厚生だけでなく、「その会社が自分を大切にしてくれるか」を重視します。
ハラスメント対策がしっかりしている企業は、それだけで選ばれる理由になります。
逆に、対策が不十分な企業は、優秀な人材を逃すだけでなく、SNSで拡散されて企業イメージを損なうリスクもあります。
「学生に選ばれる企業」へ
これからの採用活動は、「企業が学生を選ぶ」だけでなく、「学生に選ばれる」視点が必要です。
就活ハラスメント防止への真摯な取り組みは、「この会社は社員を大切にしてくれる」というメッセージになります。
最後に: 一緒に「安心して働ける職場」を作りましょう
この連載を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
就活ハラスメント防止義務化は、一見すると「面倒な規制が増えた」と感じるかもしれません。
しかし、視点を変えれば、これは企業が生まれ変わるチャンスです。
法令を守り、社会的責任を果たす企業へ
学生に選ばれる、魅力的な企業へ
社員が誇りを持って働ける企業へ
一つずつ、確実に対策を進めていきましょう。
「何から手をつけていいかわからない」
「自社に合った対策を知りたい」
「専門家のサポートを受けたい」
そんな時は、ぜひ労務の専門家にご相談ください。
法令を守りながら、学生に選ばれる企業づくりを、一緒にサポートします。
あなたの会社が、「安心して働ける職場」として、多くの優秀な人材に選ばれることを願っています。

