【連載第3回】中小企業が見落としがちなリスクと影響
前回のおさらい
連載第2回では、2025年法改正の具体的な内容について解説しました。企業に義務づけられる4つの措置、違反した場合の企業名公表、2026年末までの施行予定など、実務に直結する重要情報をお届けしました。
第3回の今回は、中小企業ならではの視点から、見落としがちなリスクと、ハラスメント問題が企業に与える深刻な影響について解説します。
「うちは大丈夫」が最も危険
「うちは従業員10人の小さな会社だから」
「社員はみんな真面目で、そんなことをする人はいない」
「年に1人しか採用しないから、関係ない」
もしこんな風に思っているなら、非常に危険です。
中小企業こそ、就活ハラスメントのリスクにさらされており、一度問題が起きた時のダメージは、大企業よりもはるかに大きいのです。
1.中小企業特有のリスク要因
リスク①: 専門部署がない
大企業には、人事部、法務部、コンプライアンス部門など、専門部署があります。
しかし、中小企業では:
- 経営者自身が採用担当
- 現場の社員が片手間で面接
- 総務が人事も兼務
専門知識を持たない人が、ハラスメントのリスクに気づかないまま採用活動を行っているケースが多いのです。
リスク②: 「昔ながらのやり方」が残っている
「自分が就活していた時は、OB訪問で飲みに行くのが普通だった」
「多少の冗談は、場を和ませるために必要」
こうした「昔ながらの感覚」が、中小企業には色濃く残っています。
しかし、時代は変わりました。Z世代の学生にとって、それは「ハラスメント」なのです。
リスク③: 身内意識が強すぎる
中小企業は、家族的な雰囲気が魅力の一つです。
しかし、その「身内意識」が、ハラスメントを生むこともあります。
- 「うちの会社に来るなら、飲み会にも参加してもらわないと」
- 「若い女の子が入ってくれたら、職場が華やかになる」
こうした発言は、学生にとって大きなプレッシャーであり、セクハラやパワハラに該当する可能性があります。
リスク④: 社員教育の機会が少ない
大企業では、定期的にコンプライアンス研修やハラスメント研修が実施されます。
しかし、中小企業では:
- 研修を実施する時間がない
- 外部講師を呼ぶ予算がない
- そもそも研修の必要性を感じていない
結果として、社員のハラスメントに対する意識が低いまま、採用活動が行われているのです。
リスク⑤: 「1人1人の裁量」に任せている
「うちは社員の自主性を尊重している」──それ自体は素晴らしいことです。
しかし、OB・OG訪問や面接の進め方を「各社員の裁量」に任せきりにしていると、ハラスメントが起きるリスクが高まります。
明確なルールやガイドラインがないまま、「各自の常識に任せる」のは危険です。
2.中小企業が受ける深刻な影響
影響①: 採用活動の完全停止
ハラスメント問題が起きると、採用活動を一時停止せざるを得なくなることがあります。
大企業なら、1年くらい採用を止めても何とかなるかもしれません。
しかし、中小企業にとって、採用の停止は致命的です。
- 慢性的な人手不足
- 既存社員への負担増
- 事業拡大の機会損失
影響②: SNSでの炎上リスク
Z世代は、SNSネイティブです。
「この会社の面接で就活ハラスメントを受けた」という投稿は、瞬く間に拡散されます。
大企業なら広報部門が火消しに動けますが、中小企業にはそんな体制はありません。
一度炎上すれば、企業名が永久にネット上に残り続けます。
影響③: 地域社会での評判低下
中小企業の多くは、地域密着型です。
地元で「あの会社、就活ハラスメントで問題になったらしいよ」という噂が広がれば:
- 地元の学生が応募してこなくなる
- 取引先からの信用低下
- 地域住民からの目線
大企業のように、全国展開して「別の地域で再スタート」ということもできません。
影響④: 既存社員の士気低下と離職
「自分の会社がハラスメント企業だった」と知った時、既存社員はどう思うでしょうか?
- 会社への誇りを失う
- 「自分も加害者に見られるのでは」という不安
- より良い環境を求めて転職を考える
特に優秀な社員ほど、問題のある企業から離れていきます。
影響⑤: 経営者個人への責任追及
中小企業では、経営者と会社が一体と見られることが多いです。
ハラスメント問題が起きれば、「社長が悪い」と直接的に責任を追及されます。
大企業の経営者は「担当部署の管理不足」と逃げることもできますが、中小企業の経営者にはそれができません。
3.「知らなかった」では済まされない4つの理由
理由①: 法律は企業規模を問わない
「うちは小さな会社だから、大目に見てもらえるだろう」──そんな甘い考えは通用しません。
法律は、従業員1人の企業も、従業員1000人の企業も、等しく対象とします。
理由②: 学生は企業規模で判断しない
「中小企業だから仕方ない」──学生はそんな風に考えてくれません。
ハラスメントを受けた学生にとって、企業規模は関係ないのです。
理由③: SNSは企業規模を選ばない
SNSでの炎上は、大企業でも中小企業でも等しく起こります。
むしろ、「小さな会社のくせに、ハラスメントなんて最低」と、より厳しい批判を受けることもあります。
理由④: 行政指導は中小企業も対象
厚生労働省の労働局は、中小企業だからといって見逃すことはありません。
むしろ、中小企業の方が、行政指導を受けた時の対応力が低く、企業名公表につながりやすいリスクがあります。
4.中小企業が陥りやすい5つの「落とし穴」
落とし穴①: 「そのうちやればいい」と先延ばし
「施行まであと1年以上あるから、そのうち対応すればいい」
この「そのうち」が、最も危険です。
いざやろうとすると、就業規則の改定、相談窓口の設置、社員研修など、やることは山積み。ギリギリになって慌てることになります。
落とし穴②: 「口頭で注意すればいい」と軽視
「社員には『セクハラするなよ』って言ってあるから大丈夫」
口頭での注意だけでは、法的義務を果たしたことになりません。
文書での方針明示、定期的な研修、ルールの策定など、形に残る対策が必要です。
落とし穴③: 「相談窓口は人事部で」と安易に決める
「相談窓口? うちは人事担当者が対応すればいいでしょ」
しかし、学生にとって、「採用担当者に、採用担当者のハラスメントを相談する」のは非常にハードルが高いのです。
社外の専門家を窓口にするなど、学生が安心して相談できる仕組みが必要です。
落とし穴④: 「うちの社員は大丈夫」と過信
「うちの社員はみんな真面目で、そんなことをする人はいない」
ハラスメントの多くは、「悪意なく」起こります。
善意のつもり、親しみのつもりの言動が、相手を傷つけることがあるのです。
「うちの社員は大丈夫」という過信こそが、最大のリスクです。
落とし穴⑤: 「費用がない」と諦める
「外部の相談窓口を設置する費用なんてない」
「研修を実施する予算がない」
確かに、費用はかかります。
しかし、ハラスメント問題が起きた時の損失(採用停止、評判低下、社員の離職)と比べれば、予防のための費用は圧倒的に安いのです。
「費用がないから対応しない」ではなく、「費用がないからこそ、予防に投資する」という発想が必要です。
5.今すぐチェック! あなたの会社は大丈夫?
以下の項目をチェックしてみてください。
□ 就業規則に就活ハラスメントに関する記載がある
□ 求職者が相談できる窓口が設置されている
□ 窓口の連絡先を採用ページに掲載している
□ OB・OG訪問のルールが明文化されている
□ 面接官に対してハラスメント研修を実施している
□ 「うちの会社はハラスメントを許さない」という方針を明示している
□ 社員全員がハラスメントについて理解している
□ ハラスメントが起きた時の対応マニュアルがある
チェックが3つ以下の企業は、要注意です。
施行までに、早急に対策を講じる必要があります。
次回予告: 第4回「実践! 今すぐ始める5つの対策ステップ」
今回は、中小企業が見落としがちなリスクと影響について解説しました。
次回の第4回では、いよいよ実践編です。中小企業が今すぐ始めるべき5つの対策ステップを、具体的に解説します。
「何から手をつけていいかわからない」という方は、ぜひ次回をご覧ください。

