【連載第4回】実践! 今すぐ始める5つの対策ステップ
前回のおさらい
連載第3回では、中小企業が見落としがちなリスクと影響について解説しました。「うちは大丈夫」という過信が最も危険であること、中小企業ならではのリスク要因、そしてハラスメント問題が企業に与える深刻な影響をお伝えしました。
第4回の今回は、いよいよ実践編です。中小企業が今すぐ始めるべき5つの対策ステップを、具体的に解説します。
「何から手をつけていいかわからない」というあなたへ
ここまでの連載を読んで、「対策が必要なのはわかった。でも、何から始めればいいの?」と思われているかもしれません。
安心してください。難しいことではありません。
今回ご紹介する5つのステップを順番に進めていけば、法改正に適切に対応できます。
ステップ1: 就業規則・採用規程の見直し【所要期間: 1〜2ヶ月】
なぜ就業規則の見直しが必要なのか
就業規則は、会社のルールブックです。
就活ハラスメント防止に関する規定がなければ、「当社はこの問題に真剣に取り組んでいる」という姿勢を示すことができません。
具体的に何を追記すべきか
【追記すべき内容】
- 就活ハラスメントの定義と禁止
- 求職者も利用できる相談窓口の設置と連絡先
- ハラスメントを行った社員への懲戒処分
- 相談・調査への協力義務
- 相談者・協力者への不利益取扱いの禁止
就業規則改定の手順
【標準的な流れ】
- 現行の就業規則を確認(ハラスメント関連の記載をチェック)
- 社労士に相談して改定案を作成
- 労働者代表の意見を聴取
- 労働基準監督署に届出
- 社員に周知
【中小企業のポイント】
「就業規則なんてないよ」という企業も、常時10人以上の労働者を使用する場合は作成義務があります。この機会に整備しましょう。
費用の目安
社労士に依頼する場合、就業規則の改定は3万円〜10万円程度が相場です。
「費用がかかる…」と思われるかもしれませんが、ハラスメント問題が起きた時の損失と比べれば、はるかに安い投資です。
ステップ2: 相談窓口の設置と周知【所要期間: 2週間〜1ヶ月】
相談窓口設置の3つの選択肢
中小企業が相談窓口を設置する方法は、大きく3つあります。
選択肢①: 社外の専門家を窓口にする(推奨)
【メリット】
・学生が安心して相談できる
・専門的なアドバイスが受けられる
・社内の人間関係に影響されない
【デメリット】
・費用がかかる(月額1〜3万円程度)
【具体例】
顧問社労士や顧問弁護士に窓口を依頼する、ハラスメント相談サービス会社と契約する
選択肢②: 業界団体の窓口を利用する
【メリット】
・費用が安い、または無料
・業界特有の事情を理解している
【デメリット】
・対応範囲が限定的な場合がある
【具体例】
商工会議所、業界団体の相談窓口を案内する
選択肢③: 社内の人事担当者を窓口にする
【メリット】
・追加費用がかからない
・社内事情をよく理解している
【デメリット】
・学生が相談しにくい
・専門知識が不足している可能性
【ポイント】
この場合でも、「社外の弁護士・社労士にも相談できます」という選択肢を併記することを推奨します。
窓口の周知方法
窓口を設置しただけでは意味がありません。求職者に「ここに相談できる」と伝える必要があります。
【周知すべき場所】
・採用ページに掲載
・会社説明会の資料に記載
・面接時に配布する書類に明記
・内定通知書に記載
【記載例】
「当社は就活ハラスメント防止に取り組んでいます。万が一、不適切な対応があった場合は、以下の窓口にご相談ください。
相談窓口: ○○社会保険労務士事務所 TEL: 03-XXXX-XXXX メール: harassment@example.com」
ステップ3: OB・OG訪問、面接のルール作り【所要期間: 1〜2週間】
なぜルールが必要なのか
「各社員の常識に任せる」では、ハラスメントは防げません。
明確なルールを定めることで、社員も「何がOKで何がNGか」がわかり、安心して採用活動に関われます。
推奨ルール例
【OB・OG訪問のルール】
□ 面談は原則、社内またはカフェなど公共の場で実施
□ 1対1での面談は避け、複数名で対応(または事前に上司に報告)
□ 夜間(19時以降)や飲酒を伴う場での面談は禁止
□ 学生の連絡先を個人的に保存しない
□ SNSで個人的につながらない
【面接のルール】
□ 面接官は必ず2名以上で対応
□ 性別、恋愛、結婚、出産に関する質問は禁止
□ 容姿に関する発言は禁止
□ 不必要な身体接触は禁止
□ 面接後に個人的に連絡を取らない
【内定者フォローのルール】
□ 過度な課題や報告を強要しない
□ 内定辞退を責めるような発言をしない
□ 内定者懇親会は日中、飲酒なしで実施
ルールの運用方法
ルールを作っただけでは、守られません。
【運用のポイント】
- ルールを文書化し、全社員に配布
- 採用担当者・面接官に対して説明会を実施
- 定期的に遵守状況をチェック
- 違反者には厳正に対処
ステップ4: 採用担当者・面接官への研修【所要期間: 1日〜1週間】
研修の重要性
「うちの社員は大丈夫」──その過信が、最も危険です。
ハラスメントの多くは「悪意なく」起こります。善意のつもり、親しみのつもりの言動が、相手を傷つけることがあるのです。
研修を通じて、「何がハラスメントに該当するのか」を正しく理解することが重要です。
研修で伝えるべき内容
【研修の構成例】
- 就活ハラスメントとは何か(定義、具体例)
- なぜハラスメント防止が重要なのか(企業への影響)
- 法改正の内容と企業の義務
- 自社のルールとガイドライン
- 万が一、ハラスメントが起きたらどう対応するか
- ケーススタディ(「この発言はOK? NG?」)
研修実施の3つの方法
方法①: 外部講師を招いた研修(推奨)
【メリット】
専門家から正確な情報を学べる、質問ができる
【費用の目安】
社労士や研修会社に依頼:5万円〜20万円程度
方法②: 厚生労働省の無料研修動画を活用
【メリット】
無料、自社の都合の良い時間に実施できる
【方法】
厚生労働省「あかるい職場応援団」のサイトに、無料の研修動画があります。これを社内で視聴し、その後ディスカッションを行うだけでも効果があります。
方法③: オンライン研修サービスを利用
【メリット】
手軽、費用が比較的安い
【費用の目安】
月額数千円〜数万円
ステップ5: 発生時の対応マニュアル作成【所要期間: 1〜2週間】
「うちは大丈夫」でもマニュアルは必要
「うちの社員がハラスメントをするはずがない」と思っていても、万が一に備えてマニュアルを作っておくことが重要です。
いざという時、マニュアルがあれば慌てず、適切に対応できます。
対応マニュアルに盛り込む内容
【マニュアルの構成例】
- 相談を受けた際の初動対応
・誰が対応するのか(担当者を明確に)
・どこで対応するのか(プライバシーが守られる場所)
・どう対応するのか(傾聴、否定しない、記録を取る) - 事実関係の調査方法
・被害者からの聴き取り
・行為者からの聴き取り
・第三者(目撃者)からの聴き取り
・証拠の収集(メール、SNS、録音など) - 被害者へのケア
・心情への配慮
・行為者の謝罪
・心理的サポート(カウンセリングの案内など)
・求職活動への影響を最小限にする配慮 - 行為者への対応
・事実確認
・懲戒処分の検討(就業規則に基づく)
・再発防止のための指導・教育 - 再発防止策
・社内への注意喚起
・ルールの見直し
・研修の再実施
5つのステップを実行するタイムライン
「いつまでに何をすればいい?」という疑問にお答えします。
【施行までのタイムライン例】
今すぐ〜1ヶ月目:
・ステップ1: 就業規則の見直し開始
・ステップ2: 相談窓口の検討・選定
2〜3ヶ月目:
・ステップ1: 就業規則の改定完了・届出
・ステップ2: 相談窓口の設置・周知
・ステップ3: ルール作り
4〜5ヶ月目:
・ステップ4: 社員研修の実施
・ステップ5: 対応マニュアル作成
6ヶ月目〜施行まで:
・運用状況のチェック
・必要に応じて見直し
・定期的な研修の実施
「1人でやるのは大変」と思ったら、専門家に相談を
5つのステップを見て、「こんなに色々やらないといけないの?」と思われたかもしれません。
確かに、1人で全部やるのは大変です。
だからこそ、社労士などの専門家に相談することをお勧めします。
【社労士に相談するメリット】
・就業規則の改定を代行してくれる
・相談窓口として機能してくれる
・ルール作りのサポートをしてくれる
・研修を実施してくれる
・対応マニュアル作成をサポートしてくれる
費用はかかりますが、「時間を買う」「専門知識を買う」「安心を買う」という投資です。
次回予告: 第5回「よくある質問と成功事例から学ぶ運用のコツ」
今回は、今すぐ始めるべき5つの対策ステップを具体的に解説しました。
次回の最終回では、経営者や人事担当者から寄せられる「よくある質問」にお答えし、実際の成功事例から学ぶ運用のコツをお伝えします。
連載の締めくくりとして、ぜひご覧ください!

