『ニューカントリー2025年夏季臨時増刊号』に社労士の鶴木の記事が掲載

特定社労士が教える!労働衛生基準と熱中症対策⑦

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7-1:なぜ今「見える化」?最新の照度・温度・湿度管理法

こんにちは。特定社会保険労務士の鶴木です。

労働衛生基準の遵守、それだけではなく「働く人が健康で安全に職場で過ごせる環境づくり」が、今ますます重要視されています。特に照度、温度、湿度といった職場環境の基本的な要素は、従業員の集中力や体調管理、さらには労災リスク軽減に直結します。にも関わらず、多くの事業所ではこれらの環境管理が見過ごされがちであり、従来の「感覚や経験に頼る」対応では限界が見えてきました。そこで注目されているのが、「見える化」による数値的かつ科学的な管理手法です。

労働安全衛生法および労働衛生基準規則に基づき、照度は作業内容に応じて150ルクス以上が求められていますが、実際に照明の明るさを計測し、その数値を現場で確認できる企業はまだ少数派です。温湿度の管理にしても、特に北海道の冬季の寒さや夏季の蒸し暑さによる影響を従業員が声に出して訴えづらいこともあり、空調設備があっても実効性のある運用がなされていない場合があります。ここでの「見える化」とは、照度計や温湿度計の導入により数値データを取得し、「見える」情報として現場の従業員だけでなく管理層も共有することを指します。この数値化こそが職場の現状把握の正確な起点となり、合理的な改善策の立案と実行を可能にします。

私の経験上、数値を使った見える化を行うことで、従業員の安全意識は驚くほど高まります。たとえば、照度計で数値を示して「ここは基準を下回っています」と明示することで、「暗くて見えづらい」という漠然とした不満が具体的な問題に変わり、経営層も実態把握ができるため迅速な対応に動けるのです。加えて、使用している機器の図示やデータを見せることが、改善に対する納得感を醸成し、経費投入への障壁を下げることにもつながっています。これは、単なる規則の押し付けではなく、「皆で働きやすい環境を築く」という共通認識をすり合わせる橋渡し役として効果を発揮します。

温湿度の管理も同様に重要です。特に夏場の屋内外の高温多湿環境は熱中症リスクが高くなり、冬場の過剰な冷え込みは健康不良と作業効率低下を招きます。そこで、デジタル温湿度計の設置や情報の定期的な記録・公表は、施設ごとの温度ムラや湿度偏差などの実態把握に欠かせません。最新の管理法としては、一定期間のデータ蓄積によるピークタイムの特定や、冬季は動線に合わせた寒暖差の評価も実施しています。こうした科学的かつ継続的な環境モニタリングにより、「暑い・寒い」の感覚だけに頼らない客観的な改善ポイントの抽出が実現します。

またIoT技術を活用した環境測定機器の導入が進んでいます。温湿度や照度のデータをリアルタイムで集約し、管理者へアラート通知するシステムも登場しています。これにより、「何となく暑い」「暗いかもしれない」という曖昧な印象が具体的な指標として示され、危険な環境状態を見逃さず、時間帯や場所ごとに最適な対策を迅速に実施できるようになりました。例えば、湿度が一定値を超えた時点で空調の設定変更や換気扇の起動を促す仕組みは、熱中症や感染症予防の観点からも今後ますます求められると考えています。

職場の環境改善には設備投資が必要となることもありますが、見える化によって具体的数値を示せば、経営者は単なるコストではなく「将来の投資」としてその必要性を理解できます。私が大学職員時代に経験した事例では、古い蛍光灯からLED照明への切り替えにかかる初期費用を正確な照度測定結果で説明し、従業員の作業効率や安全性の向上を踏まえた改善効果を示すことで、速やかにプロジェクトを実行に移せました。結果、ミスの減少や転倒事故の抑制に繋がり、長期的には事故対応費用の節減にも貢献しました。

小さな違和感でも見逃さず数値化し、「見える形」で現場にフィードバックを続けることが質の高い労働衛生管理の本質です。数値に基づく管理は、単なる法令遵守のための作業にとどまらず、働きやすさと健康寿命の延伸を実現する最前線です。そして、社労士はその現場と経営層をつなぐ「制度の橋渡し」にとどまらず、「数値で現状を共有し、共に改善を積み上げていく実践者」としての役割も担っています。今こそ、「見える化」を活用し、職場の「空気」を科学的根拠で変える取り組みを一歩踏み出しましょう。

7-2:失敗しない数値管理導入のノウハウと計測事例

労働衛生管理において「見える化」はもはや必須と言える時代になりました。しかし、数値管理を導入する際に多くの現場が直面するのが、「どうやって計測すればいいのか」「何の数値を優先すべきか」「現場に抵抗なく浸透させるにはどうすれば良いか」という問題です。私の経験から、「失敗しない数値管理導入」にはいくつかの重要なポイントがあり、それを踏まえた計測事例とともに解説します。

まず、数値管理導入の前提として理解すべきは、単純に「計測機器を買って設置すれば完了」という考え方ではないことです。数値はあくまで現場の実態を正確に把握し、課題を共有するコミュニケーションツールなのです。そこで大切になるのが、「現場との対話を重ねて納得感を醸成すること」です。

初めて照度計や温湿度計を導入する中小規模の職場では、「なぜ今さらそんなことを?」という声や「面倒だ」、「予算がない」という抵抗が必ず出ます。ここで大切なのは、まず現場の自主的な理解を得ること。具体的には、作業環境における違和感や不満をヒアリングし、それらを「見える化」する数値と結び付けて説明します。例えば「ここが暗いと感じていたが、照度計を当ててみると基準以下である」と数値で示すことで、改善の必要性を納得してもらえます。単なる法律や規則の押し付けではなく、「働く人の健康と安全を守るため自分たちが何をすべきか」を共に考える姿勢が欠かせません。

計測対象は、労働衛生基準に則りながらも、現場特有の不便やリスクを優先的に拾い上げるのがポイントです。照度計測を例に挙げると、単純に「全体の平均値」ではなく、作業者の目線の位置や特にミスや転倒が発生しやすい場所、目が疲れると感じている個所を中心に複数点で測定します。こうして得られた具体的な数値のばらつきが、「日常の感覚」と科学的根拠のギャップを埋める説得材料になります。

私の前職での経験では、ある大学の研究室で作業スペースの照度を測定したところ、標準的な机上高さでは300ルクス以上あったにも関わらず、壁際の補助作業用スペースでは70ルクス未満の暗さであることが判明しました。職員は「あそこは昔からこんなもの」と諦めていたものの、測定データを共有すると、「確かに暗いと感じていたのは自分たちだけじゃなかった」という共感が広がりました。この数値化は改善提案の大きな材料となり、LED照明の部分的な交換に繋がったのです。

温湿度の計測も同様に、室内の複数ポイントで行い、そのデータをもとに冷暖房設備のゾーニング改善や空気循環の再検討を促します。北海道の冬は特に室内の寒暖差が作業効率や健康に影響を及ぼすため、暖房の熱が偏っている場所、逆に冷気が溜まる場所を特定し、局所的な対策が可能になりました。温湿度計の測定を始めた際には、現場から「寒い寒い」と愚痴をこぼす声もデータに落とし込み、経営層との対話の良いきっかけとなります。

さらに数値管理の重要なポイントは、「継続的な計測とデータの蓄積」です。単発的に数値を取るだけでは現状把握にとどまり、改善効果の検証や季節変動への対応策検討には不十分です。例えば夏季の熱中症対策では朝昼夕の気温や湿度、WBGT値を繰り返し計測してリスクのピーク時間帯を割り出し、作業計画や休憩割り振りの根拠とします。また冬季は最低気温と暖房エリアのばらつきを見て、重点的に対策すべき箇所を絞り込むことができます。こうした継続性が見える化の説得力と実効性を支えます。

計測結果は単に記録を残すだけでなく、わかりやすいグラフや図表に加工して関係者に共有し、「ここは改善済み」「次はここを改善しよう」という具合に段階的に目標設定していくことも重要です。数値が目標値に達するまでの経過を見える化することで、現場のモチベーションも向上します。

加えて、数値管理を成功させるためにお勧めする施策として、現場巡視の際に計測機器を携帯してリアルタイムで説明しながら測定する方法があります。これができると「今日の数値はどうですか?」「この場所に照度が足りない理由は?」とインタラクティブに会話ができ、現場スタッフの理解が深まるため導入後の抵抗感を大幅に減らせます。

最後に技術面も注視すべきで、例えばIoT対応の温湿度計やWBGT計測器は、リアルタイムでデータ集約ができて異常値のアラートも発信可能。こういった機器の導入は初期投資がかかりますが、中小企業でもレンタルや補助金制度を活用可能なケースが増えているため、現場の規模や予算感に合わせて選定すると良いでしょう。設備投資の理解を得る際は、計測データをもとに「何が改善されたか」「どんなリスクを減らせたか」を明確に示すことが重要です。

数値管理の失敗例としては、計測データを現場と共有せずに終わってしまう、または測定だけで満足して改善に繋がらないケースがあります。これでは労働衛生管理の目的を達成できません。私の座右の銘である「あきらめたら試合終了ですよ」を胸に、数値を「寝かせる」ことなく活用し、現場との対話を継続的に重ねることが不可欠です。

このように、失敗しない数値管理の導入とは、機器の選定や技術面だけでなく、現場と経営層との対話、数値のわかりやすい提示と継続的な活用が全て揃ってはじめて実現するのです。私も特定社会保険労務士として、数値データを活用した職場環境改善に積極的に関わり、北海道小樽の多様な職場の働きやすさ向上に寄与していきたいと考えています。

7-3:安全・健康職場を守る!数値根拠のコミュニケーション術

労働衛生管理の現場で繰り返し感じることの一つに、「感覚」に頼った安全衛生対策の限界があります。長年同じ職場で働く人ほど、「これくらいで問題なかった」「昔からこうだから」という“慣れ”が生じ、実は微妙なリスク増大の兆候を見逃してしまうケースが多いのです。この“慣れ”による認識のずれは、労働衛生基準の遵守を形骸化させ、従業員の健康や安全、ひいては経営の根幹を揺るがしかねません。私が北海道の様々な現場を訪れる中でも、この問題は特に小規模事業所ほど顕著に見受けられます。

この問題の打開策として必要不可欠なのが「数値根拠」によるコミュニケーションです。つまり、職場の照度や温湿度など環境条件を客観的かつ具体的な数字として測定し、それを関係者間で共有することによって、安全衛生の現状認識を揃えるということです。その際に重要なのは、単に計測データを示すのではなく、数値を「わかりやすい形」に加工し、現場の課題や従業員の声と結び付けて説明・提案することです。

具体的には、例えば照度であれば、「この位置の作業現場では150ルクスを下回っており、基準を満たしていません」と表示します。さらに、「ここは高齢従業員の多いエリアで、視認性の低さがミスや転倒事故の原因となっています」と理解しやすい解説を添えます。これにより、単なる数値の羅列から、現状の問題点が「人の安全に直結している」ことが明確になり、経営層から現場スタッフまで納得感を持って改善策を共有できます。

私の経験上、数値根拠による可視化は「職場の空気」を変える大きな力を持ちます。かつて大学職員時代、古い蛍光灯で薄暗かった研究室の照度測定結果をグラフと写真で示し、「見てください、この暗さは高齢の方の作業安全を大きく損なっています」と説明した際、長年放置されていた改善プロジェクトがスムーズに立ち上がりました。この後LED照明に切り替えた結果、転倒やミスが激減し、結果的に事故対応費用も削減できたのです。感覚での理解から数値による納得へと変わる瞬間は、現場の空気を科学的根拠で動かすことの強さを実感しました。

安全で健康的な職場づくりにおいて、数値管理の見える化は単なる法規制遵守とは異なり、「持続可能な改善プロセスの起点」として機能します。経営層は「数値データ」を経営判断の材料として活用しやすくなり、現場スタッフは自らの作業環境の状態を理解し、自主的な安全意識向上につながります。測定器を導入して計測するだけで終わるのではなく、結果を経営層や職員の前で共有し、議論を促すことが何より重要です。

加えて労働衛生管理は「時間」と「連続性」が欠かせません。一度の測定で完璧な答えが出るわけではなく、季節や環境の変動、職場の什器配置の変更に応じて継続的に計測と対話を繰り返すことで、職場環境の変化に柔軟に対応できます。特に温湿度は季節で大きく変動し、熱中症リスクにも直結します。定期的な温湿度測定とデータの蓄積、関係者への周知は、具体的な安全管理のレベルアップに不可欠です。

また、労働者の多様性への配慮も数値化のコミュニケーションの中で大きな意味を持ちます。高齢者や視力に不安のある従業員にとって、適切な照度の確保は当然ながら健康維持に直結します。環境測定の数値は、そうした従業員の実際の声と照らし合わせて示すことで説得力を持ちますし、職場の多様性を尊重・反映した安全衛生管理を促進します。

私が「小さな違和感を言葉にする」ことを大切にしているのはこのためです。たとえば、「ここは照明が暗い気がする」「冬場はこの部屋が特に寒い」「トイレの換気が弱くて不快」など、普段の雑談や定期巡視の中で拾い上げる職場からの声が、計測数値と結びつくことで初めて社内での改善提案として成立します。このステップを怠ると数値は単なる「作業データ」になってしまい、現場の納得や改善意欲を喚起できなくなります。

社労士としての私の役割は、「制度の橋渡し」で終わらず、「数値で現状を共有し、経営層と現場スタッフの双方にとって意味のある対話をつくり、改善活動を共に進めること」にあります。現場のリアルな声と数字を伴走しながら経営に届け、現場と経営の「共通言語」を形成することこそが、労働衛生基準を守り、真の意味で安全で健康な職場を実現する鍵です。

これからも「数値根拠をもとにしたコミュニケーション術」を磨き、北海道の皆さまの働きやすい安全衛生の環境づくりに寄与していきたいと考えています。対話を積み重ね、現場の小さな違和感を見逃さず改善へとつなげる努力を続けることが、私の使命であり、皆さまの信頼に応える道だと信じています。

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