『ニューカントリー2025年夏季臨時増刊号』に社労士の鶴木の記事が掲載

特定社労士が教える!労働衛生基準と熱中症対策②

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目次

小規模事業所における労働衛生基準の実際と落とし穴

こんにちは。特定社会保険労務士の鶴木です。

労働衛生基準は、すべての事業者が従業員の安全と健康を守るために守るべき最低限の環境ルールですが、小規模事業所ではその遵守が意外に難しい実態があります。私は27年以上にわたり北海道大学をはじめとする各種機関の人事・労務管理に携わってきましたが、特に中小規模事業所での労働衛生基準遵守の課題とそこに潜む落とし穴は、現場の実情を踏まえた対応が不可欠だと痛感しています。

まず、小規模事業所が抱えがちな最大の課題は「慣れとあきらめ」です。規模が小さいため、目の前の生産や業務に追われ、労働衛生面の整備は「できればやりたいが」と後回しになりがちです。古い照明、狭い休憩スペース、男女共用のトイレ、冷暖房設備の未整備など、従業員からすると不便と感じる点が数多くあっても、長年そこに慣れてしまうことで問題意識が希薄になります。こうした「日常の当たり前」が労働衛生基準の視点で見ると大きなリスクであることに気づけないのが現状です。

例えば照度については、2021年の改正で最低照度が引き上げられましたが、小規模事業所では現在の照度を計測して「数値で示す」取り組みがまだほとんど普及していません。現場では「昔からこれで問題なかった」と見過ごされがちですが、実際は照明不足による転倒やミスのリスクが潜んでいます。視力に不安のある高齢者や長時間作業者にとっては特に危険度が増すため、この点を改善しない限り事故や労務トラブルの芽を摘むことはできません。

また、トイレや更衣室の設備についても、小規模でも安心・快適な環境整備は重要ですが、労働衛生基準が示す「独立個室型」の男女共用トイレでさえ整っていない事例が見受けられます。プライバシーや衛生面に配慮が足りていないことは職場のイメージダウンになるだけでなく、女性従業員の応募減少や離職率増加にもつながります。結果として、労務管理や採用活動の負担増加という別の課題を生むことになります。

休憩室の設置や温湿度管理の面においても、社会的な期待値は年々高まっています。特に熱中症リスクの高まりが懸念される昨今では、空調設備の未整備が健康被害や労災に直結しかねません。小規模事業所が設備投資に慎重になるのは理解できますが、これを「コスト」として片付けるのは誤りです。労働衛生基準遵守は「経営の投資」であり、従業員の健康管理とモチベーション維持、さらには生産性アップの礎と捉える必要があります。

こうした問題を解決するには、外部の専門家や社労士の関与が鍵となります。私たち特定社会保険労務士は、現場を実際に見て「今の環境は法令の基準を満たしているのか」「どこに改善余地があるのか」を客観的な視点で評価し、「もちこたえているけど本当は危ない」部分を数値化して見せることができます。特に照度計で測定した数値は、現場の納得感を得て改善行動を促す強力なツールになるのです。

さらに、現場の声を引き出すコミュニケーションも非常に重要です。日常業務に追われる小規模事業所の労働者は、衛生面の問題などについて経営層や管理者に伝えづらいことも多いものです。そこを信頼される社労士が「世間話」から入り、軽い言葉で差し障りなく問題を拾い上げることが「空気を変える」一歩になります。労働衛生基準遵守の積み重ねは、一朝一夕のものではなく、こうした対話や現場巡視を繰り返すことで少しずつ改善されていくのです。

落とし穴として最も怖いのは、「現場の慣習」を変えようとせずに見て見ぬふりをすることです。私の経験上、どんなに小さな違和感も決してあきらめてはいけません。私の座右の銘である「あきらめたら試合終了ですよ」は、まさにこのような職場改善の場面において胸に刻むべき言葉です。たとえ小規模事業所であっても、安全で快適な職場環境は必ず実現可能であり、それが企業の持続的成長につながります。

最後に、小規模事業所が労働衛生基準の落とし穴を避けるためには、制度の理解と現場のニーズ把握を両輪にして、具体的で効率的な改善計画を段階的に実行することが肝要です。最新の法改正情報と実務経験を活かして、私は皆様の事業所が安全衛生の面で先進的かつ働きやすい職場になるよう全力で支援していきます。

専門家直伝!労働衛生基準を現場で活かすコミュニケーション術

労働衛生基準の遵守は、単なる法令の「守るべき義務」ではなく、職場の安全・健康環境を整備し、従業員の働きやすさや企業の持続的成長を促す重要課題です。しかし、現実的には制度が形骸化し、従業員や経営者双方が「慣れ」や「諦め」に陥ってしまうケースが少なくありません。この状況を打破し、労働衛生基準を現場で実効的に活用するためには、数値や規則を提示するだけでなく、「対話を通じたコミュニケーション」が不可欠です。今回は、27年以上の国立大学等での労務管理経験と社労士としての視点を活かし、現場に根付く労働衛生基準の活かし方を具体的に解説します。

まず、労働衛生基準を現場で活用する際に最も悩ましいのが「現場の慣習や心理的障壁」です。例えば、照度不足やトイレの不備、空調問題などは、「昔からこれでやってきた」「特に支障はない」と思い込む環境が多く見られます。この「慣れ」は、表面的には業務の効率や安全意識の低さに直結しないように思われがちですが、見えないリスクや従業員のストレスを潜在化させ、結果的にミスや事故、離職につながることが多いのです。だからこそ、社労士として現場に入る際は、単に法令を説くのではなく、「現場の声を聴く」ことを意識しています。世間話や雑談から仕事環境の小さな不満や気になる点を引き出し、信頼関係の構築に努めることが、コミュニケーション術の基本だと思っているからです。

次に、大切なのは「数値での可視化」です。例えば、照度不足に関しては「感覚」や「経験」で問題を判断するのではなく、実際に照度計を用いて数値を測定し、具体的な現状を明示することが有効です。私が以前携わった大学職員の現場でも、照度計で測った70ルクス未満の場所を示すと、経営層や作業者の間で「こんなに暗いのか」という驚きと納得感が生まれ、その場で改善計画が動き始めました。これは、規則やガイドラインが書面で示す基準を「見えるかたち」にして現場に持ち込むことで、労働衛生基準を単なる形式的なルールから実際的な改善へとつなげる好例です。

さらには、働く人の多様性に着目してコミュニケーションを深めることも重要です。特に北海道は高齢者率が高い地域も多く、年齢や身体状況により快適で安全な環境設定のニーズは異なります。ひとくちに「照度」といっても高齢者や視力障害を抱える方の視覚特性を配慮すれば、基準値以上でもなお改善の余地が出る場合があります。このため、社労士としては職場の多様な人材の声を丁寧に聞き取り、「どんな環境だと仕事がしづらいのか」「ここが改善されると助かる」といった具体的な要望を経営者に橋渡しする役割を果たします。現場の生の声と法律の枠組みをつなぐことで、バランスの取れた安全衛生環境を作り出すのです。

また、社労士として現場改善提案を行う際には、「小さな違和感を言葉にする」ことを強調しています。日常の中で感じる「なんとなく不便」「気になるけど言いづらい」ことを拾い上げ、それが衛生面や安全面でどんなリスクを生むかを説明し、経営層に伝えることが組織全体の改善につながります。実際、現場巡視の際に立ち寄ったトイレの扉の不具合や休憩室の換気不足など、いわば「見過ごされがちな小さな箇所」に目を向けることで、「会社は従業員を大事にしている」というメッセージが自然と伝わり、職場の信頼感アップにつながっていきます。

コミュニケーションの質を高めるためには「継続的な対話」も欠かせません。労働衛生基準は一度遵守できれば終わりではなく、時流や現場の変化に合わせて見直し、改善を継続する必要があります。そのためには、定期的なミーティングを提案し、従業員や管理職が自由に意見を言える場を設けることが効果的です。また、数値管理の結果や改善状況を共有することで、経営者と現場の対話の質が向上し、主体的な取り組みが促進されます。私自身も定期的に現場に足を運び、何気ない会話を通して「空気を感じる」ことを大切にしています。こうした継続的なコミュニケーションが、労働衛生基準の運用を生きたものにしていくのです。

最後に、社労士ならではの立場から言いたいのは、「制度を伝えるだけでなく、現場の“小さな声”を経営層へ届ける架け橋的役割を果たすこと」です。私が重要視しているのは、労働衛生基準を礼儀正しく押し付けるのではなく、「あきらめたら試合終了ですよ」の精神を背景に、現場の意見を聞き出し現実的かつ段階的な提案を行うことです。コミュニケーションを通じて現場と制度をつなぎ、安全で健康的な職場づくりを進めることこそ、社労士に課せられた使命であると考えています。

コスト削減と定着率UPを図る具体的改善策

労働衛生基準の遵守は法令遵守にとどまらず、適切な職場環境整備が従業員の健康保持と生産性向上につながることで、事業所のコスト削減や従業員の定着率アップをも実現します。特に中小規模事業所では資源が限られているため、くみ取り可能な具体的改善策によって経費削減と職場の魅力強化を同時に目指すことが重要です。ここでは、特定社会保険労務士としての経験に基づき、効果的で実践可能な改善策を3つの切り口でご紹介します。

まず、労働衛生基準の基礎である「職場環境の改善」によるコスト削減効果です。例えば照度管理は単なる義務ではなく、適切な照明環境を整えることで作業ミスや事故の減少につながり、安全事故や労働災害による高額な損害賠償、企業イメージ悪化のリスクを軽減します。実際、最低照度を基準値以上に整備した職場では、夜間作業での転倒や視認ミスが減り、作業効率が顕著に向上しました。加えて、照明設備はLED化することで電気代の削減効果も長期的に得られます。これは単なるコスト削減ではなく、初期設備投資を経て、持続可能な経費削減につながる賢明な経営判断です。

次に、従業員の健康管理制度の充実による「定着率向上」の側面です。トイレや更衣室の衛生環境を法律通りに整えることはもちろん、「見た目の清潔さ」や「プライバシー保護」を強化することで、従業員の満足度が増し、職場への愛着心を醸成します。ある中小事業所では、老朽化したトイレを改修し、清掃頻度を見直したところ、女性パートスタッフの応募者数と定着率が大幅に改善しました。トイレ環境は職場の「顔」ともいえる重要な設備であり、採用競争力強化や離職防止に直結します。また、休憩室の整備も健康管理の一環として見逃せません。2021年の改正を踏まえ、適切な温湿度管理や男女別の休憩空間の導入は、ストレス軽減と疲労回復を促し、長時間労働の弊害を軽減する効果が期待できます。

三つ目は「コミュニケーションと教育の強化」による運用面の効率化と経費抑制です。労働衛生基準と熱中症対策を単に設備の問題としてではなく、「社内コミュニケーションの課題」として位置づけることが重要です。従業員が労働衛生面での違和感や不満を気軽に相談できる職場環境を整えることは、些細な問題の早期発見と対応につながり、問題が顕在化してからの高額なトラブル対応コストを抑制します。具体的には、日常の雑談や現場巡視で小さな声を聞き取り、数値データと併せて経営層に報告し改善策を提案する仕組みづくりが求められます。さらに、熱中症対策の義務化が進む中でのバディ制導入や緊急時対応マニュアルの整備は、事故リスク低減のみならず、労務問題回避に大きく寄与します。これらの対策は社労士との連携によってスムーズな運用が可能となり、結果的に教育研修費用や労務トラブル解決費用の節減につながるのです。

以上の三つの切り口で共通するポイントは、労働衛生基準を「コスト」として捉えるのではなく、「将来の経費削減と従業員定着という投資」として、段階的かつ継続的に改善を図る視点です。小規模事業所の場合、一度に完璧な設備投資や制度導入を行うのは困難ですが、照度計測や温湿度の見える化など数値による現状把握をスタートに、社内コミュニケーションを活用しながら改善点を一つずつ解消していく方法が効果的です。こうしたプロセスにより、従業員の信頼を得て職場の満足度が上がることは、離職率低下にも直結します。

最後に、私が経験上強くお勧めするのは、「あきらめない姿勢」です。職場の「慣れ」が法律守る足かせになることもありますが、小さな改善が積み重なることで職場全体が安全で快適に変わります。労働衛生基準を守ることは、単なる規制対応ではなく「従業員を大切にする企業文化づくり」そのもの。経営者と労務担当者が現場の声に耳を傾け、対話を重ねることなしに、真の定着率向上もコスト削減も実現しません。私たち社労士は、その橋渡し役として、労働衛生基準の活用を通じて貴社の持続的な成長をサポートいたします。

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