『ニューカントリー2025年夏季臨時増刊号』に社労士の鶴木の記事が掲載

特定社労士が教える!労働衛生基準と熱中症対策⑥

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目次

6-1:熱中症事故を防ぐバディ制の具体的な導入メリット

こんにちは。特定社会保険労務士の鶴木です。

熱中症対策の強化が法令で義務化される中で、企業が取り入れるべき有効な施策の一つが「バディ制」の導入です。バディ制とは、作業員を2人1組にすることでお互いの健康状態や体調異変に気づきやすくし、熱中症の初期症状を早期に発見しやすくする仕組みです。この制度は単なる安全管理手法に留まらず、従業員同士の信頼強化やコミュニケーション活性化にも寄与するため、職場全体の安全文化醸成に大きく役立ちます。

まず、熱中症は初期症状がわかりにくく、本人も気づかず我慢してしまいがちな特徴があります。特に屋外や高温の作業現場では、体調不良のサインが疲労として漠然と受け止められたり、暑さへの耐性として誤認されることが少なくありません。そのため、バディ制を導入して「お互いの異変に気づき、声かけができる環境」を作ることは、単独作業では難しい早期発見を実現することになります。これはまさに、私の趣味である登山の経験にも通じる考え方です。山行中は常に相棒の体調やペースを気にかけることが安全登山の原則であり、その目配りこそが命を守る大切な役割を果たします。同様に職場でも、バディが互いにケアし合うことで、熱中症をはじめとする健康問題リスクの低減に繋がるのです。

次に、バディ制には心理的な安心効果も大きく働きます。従業員は一人ではないという認識や、「仲間が見守ってくれている」という連帯感が生まれ、精神的なストレス軽減やモチベーション向上にも寄与します。こうした仲間意識は、熱中症のみならずさまざまな安全リスクに対しても検知力や対応力が向上する好循環を生み出します。また、普段から互いに会話を重ねて健康状態を確認し合うことで、体調の微妙な変化も見逃しにくくなります。たとえば、顔色の変化や動作の変化、会話内容の様子など、健康状態を示す小さなサインを感じ取りやすくなるため、放置されがちな初期症状を見逃さずに済みます。

さらに、バディ制は熱中症対策にまつわる報告体制の整備にもプラスに働きます。2025年施行の労働安全衛生規則改正では、熱中症の疑いがある場合の報告体制や初期対応マニュアルの整備が義務付けられています。バディ制においては、異変に気づいたバディがまず速やかに上司や管理者へ報告しやすいため、報告・連絡・相談(ホウレンソウ)もスムーズに行われます。これにより、熱中症の悪化を防ぐ初期対応も迅速に実施でき、結果として労働災害発生を抑制できることは明白です。実務経験からも、報告ルールが曖昧であったり現場の理解が不十分な職場では事故が多発しやすいことを痛感しているため、バディ制はリスク管理の観点でも極めて有効な仕組みだと言えます。

加えて、バディ制は従業員同士のコミュニケーションの活性化と安全意識向上を促進する面も見逃せません。熱中症対策という目的に加えて、普段から互いの状態を気遣い声をかけ合う活動は、職場の雰囲気を明るくし、職員同士の信頼関係構築やチームワーク強化につながります。安全に関わる対話が自然に増えることで、法令遵守の「形式」だけにとどまらない「現場の安全文化」醸成が実現されるため、事故の再発防止やハラスメントの抑止にも効果が波及します。これこそが私の長年の現場経験から得た、制度導入の本質的な価値と感じています。

導入時の具体的メリットとしては、バディ制により互いの異変に早く気づけるため、職場における熱中症リスクの顕在化と軽減が加速します。現場従業員の不安や疲労感の軽減、健康状態の共有による安全行動の習慣化も望めます。また、管理者は労働安全衛生法の改正を踏まえた体制づくりの一環としてバディ制を位置づけられ、労務リスク軽減や法令遵守の面での評価も得やすくなります。これにより、企業としての社会的信頼度向上や採用時のブランドイメージ強化にもつながるため、経営面でもメリットが大きいと言えるでしょう。

一方で、導入には「バディ同士の役割や責任の明確化」「定期的な教育・訓練」「相手を気遣い声を掛けやすい職場風土の醸成」が不可欠です。単にペアで作業させるだけでは効果が限定的となるため、マニュアルや研修で「どういうサインを見逃さないか」「異変に気づいたら具体的に何をするか」を周知徹底する必要があります。また、職場環境や作業内容に応じてペア編成の工夫も重要であり、技術レベルや性格、体力差を考慮しつつ安全監視機能が最大限発揮されるよう運用設計を行うことも求められます。

最後に、日々の現場で継続的にバディ制を形骸化させずに機能させるためには、管理者が現場を巡回し定期的なフォローを実施すること、そして従業員間のコミュニケーションを怠らない姿勢が鍵となります。私自身の経験からも、現場の声を拾いながら制度運用の問題点を少しずつ改善していく地道な取り組みが、熱中症をはじめとする労働災害防止の大きな成果につながると強く感じています。

6-2:ウェアラブル端末活用による安全管理の最前線

近年、労働安全衛生の分野において急速に注目を集めているのが、ウェアラブル端末の活用による安全管理です。2025年から義務化される熱中症対策の一環としても、これら最新技術は従業員の健康リスクを低減し、事故を未然に防ぐ強力なツールとなっています。私がこれまでの27年以上の労務管理経験や医療機関での実務を踏まえ、実務的な視点からウェアラブル端末の最前線活用法を解説いたします。

まず、ウェアラブル端末とは、身に着けられる小型のセンサー機器であり、体温、心拍数、活動量などの生体情報をリアルタイムで計測・収集できるデバイスを指します。これらのデータは連動したクラウドサーバーや管理用アプリに送信され、作業者本人だけでなく、管理者側も作業環境や従業員の生理状態を客観的かつ継続的に把握できるため、これまで感覚や経験に頼らざるを得なかった健康管理が科学的根拠に基づくものへと変革されます。

実務現場での導入効果は極めて大きいです。特に夏場の高温多湿環境下での作業においては、熱中症のリスクは刻一刻と変動します。従来の手法では、労働者が異常を自覚し、声を上げるまでリスクが見えにくかったのが課題でした。ウェアラブル端末の導入により、個々の体温や心拍の上昇といった微細な変化がデータとして「見える化」され、事故前の段階でアラートが発せられます。この早期警戒システムは、リスクの顕在化を防ぎ、休憩指示や作業内容の切り替えをタイムリーに行うための根拠となりうるのです。

また、異なる作業員の健康状態を一元管理できることで、管理者は現場全体の安全レベルを把握しやすくなり、人員配置の最適化やリスクの高い区間の休止判断などを迅速に行えます。効果的な対応が遅れれば命に関わる熱中症に対して、時として数分単位の対応スピードが事故を防ぐカギとなるため、科学的データの提供は現代安全管理の最重要課題の一つです。

ただし、実際の導入にあたってはコスト面やプライバシーの問題にも配慮が必要です。従業員が個人の健康状態を常時監視されているというプレッシャーを感じないよう、目的はあくまでも安全管理であり、健康情報の取り扱いは厳正に限定されるという点を周知徹底することが不可欠です。導入時には社内での丁寧な説明と合意形成、そしてプライバシー保護ルールの明示がセットになって初めて機能する仕組みとなりえます。

さらに、この技術と相性の良い安全管理の一手法として、前述のバディ制(2人1組での互助体制)を併用することも強く推奨します。ウェアラブル端末は科学的な「客観情報」を提供しますが、作業員同士がお互いの体調変化に気づき声をかける「人間的ケア」の網も重要です。これら二つの対策を組み合わせることで、熱中症のリスクを多層的に監視し、事故予防の確度を飛躍的に高めることが可能となります。

また、ウェアラブル端末は熱中症対策以外にも、心拍異常の早期発見や長時間労働による疲労蓄積のモニタリングなど、多面的な健康管理に応用できます。特に医療系現場、製造業、建設業など多様な業種において安全管理レベルの標準化と高度化に貢献し、結果的に労働災害の減少と従業員満足度の向上に結びついています。

私の経験からも、技術の進歩を活用しつつも、現場の「空気を読む」こと——つまり、従業員の心理的安心感やコミュニケーションの重要性は決して失われるべきではありません。ウェアラブル端末は単なる物理的デバイスではなく、働く人の健康を「見守っている」という安心感の提供にも繋がるべきです。そのためにも、導入後は現場での運用状況を定期的に確認し、現場スタッフからのフィードバックを積極的に拾い上げ、環境に即した運用改善を継続することを強調したいと思います。

ウェアラブル端末の導入は単なる機械的な管理から、安全で健康的な職場づくりに向けての一歩でしかありません。日々変化する職場環境に柔軟に対応し、小さな違和感も見過ごさず、最新技術と人の力を掛け合わせて働く人の命を守ることこそ、私たち特定社会保険労務士に課せられた使命であると確信しています。

6-3:現場・労務を繋ぐプロの視点から学ぶ実践策

労働安全衛生の取り組みにおいて、現場と労務管理の橋渡しを担うのは、私たち社労士の重要な役割です。特に熱中症対策や労働衛生基準に関わる案件では、法律や規則の「形式」を提示するだけでなく、現場の空気を感じ取りながら「実際に使える制度」へと落とし込む実践力が求められます。ここでは27年以上の国立大学等の職員としての経験に加え、医療機関での労務対応にも携わった私の視点から、現場と労務をつなげるうえで有効な実践策を述べます。

まず前提に置くべきは、「法律や基準は現場で働く人の健康と安全を守るためのツールである」という認識です。これを組織の一方的なルールとして押し付けると、現場から反発や無関心が生まれ、制度の形骸化を招きます。したがって、現場の声を聴くことが最初の一歩です。私が実践するのは、硬いヒアリングではなく日常会話に近い雑談を交えたコミュニケーションです。例えば「最近の暑さどうですか?」という何気ない言葉から、トイレの不備や照明の暗さといった職場環境の不満、さらには熱中症の兆候を感じつつも我慢しているといった実情まで引き出すことが可能です。こうした声は経営層や管理者にはなかなか届きにくいため、私たちが運ぶ「現場の小さな違和感」は衛生管理の改善策検討において極めて重要な素材となります。

次に大切なのは「数値の見える化」です。現場の感覚や経験値だけに依存する労働環境の管理は、主観的でブレが生じやすく、改善策が後手に回ることも少なくありません。例えば照度計や温湿度計で実際の環境数値を計測し、その結果を写真やグラフ、数値データで示すと、従業員・管理者双方の納得感が格段に上がります。大学職員時代の経験では、長らく「目に見える灯りは十分」と思われていた場所の照度不足が、実測値データで明らかになり、その後のLED照明導入がスムーズに進みました。このように「数字で示すこと」は改善推進の強力な武器です。

また、労働者の多様性にも十分に配慮しなければなりません。高齢者や視力に問題を抱える方、身体的負担が大きい作業に従事している人は、一般的な基準以上の配慮が求められます。社労士として現場を訪問するときは、こうした背景事情を踏まえ、「どこが負担になっているのか」「何が改善されれば働きやすくなるのか」を直接尋ね、仮説と現場の声をすり合わせ、事業主に具体的な提案を行っています。例えば照明の色温度調整やトイレのドアの隙間埋め、小休憩ポイントの増設といったきめ細かな現場仕様改善が労働環境向上に直結します。

さらに社労士は経営者や管理職との対話も重要な役割です。現場の声や数値データを基に規制遵守を促すのは当然ですが、単なる法令順守の義務感だけでなく、「職場全体の信頼感向上」「長期的な生産性アップへの投資」という視点を提示することで、経営層の理解と協力を得やすくなります。人材採用競争が激化する中、働きやすい環境づくりは企業ブランドの向上戦略にも直結します。社労士の知見を活かし「制度の橋渡し役」として、法令と現実のギャップを埋め、双方が納得できる改善策を共にデザインすることは極めて重要です。

実際の職場改善には「継続的な対話」が欠かせません。衛生基準の遵守状況や熱中症対策の効果は一度の検査や研修で終わるものではなく、変化する季節や従業員の事情に応じて見直しを図る必要があります。私の場合、定期的な現場巡視を通じて新たな課題を拾い、従業員とのコミュニケーションを深めることに努めています。こうした対話の場は、数値データはもちろん「職場の空気」を感じる貴重な機会となり、「小さな違和感」を見逃さず、次の改善策に繋げることが現場の安全衛生向上につながるのです。

また、熱中症対策ではバディ制やウェアラブル端末など先進の手法の導入サポートも重要です。実務の長い経験から、これらの科学的根拠に基づく多層的な安全管理体制が、従業員一人ひとりの命を守るだけでなく、現場のチームワーク強化、心理的安全感の醸成にも貢献すると確信しています。経営者と現場の両方と連携を図りつつ、制度をより効果的に落とし込む支援を心がけています。

些細な問題も見逃さず、法規制の枠を超え、働く人すべてが健康で安心して働ける職場づくりを継続していくことが私たちの使命であると考えています。これこそが、現場・労務を繋ぐプロとしての本当の「実践策」と言えるでしょう。

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