『ニューカントリー2025年夏季臨時増刊号』に社労士の鶴木の記事が掲載

特定社労士が教える!労働衛生基準と熱中症対策①

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特定社労士が教える!2021年労働衛生基準改正の核心ポイント

こんにちは。特定社会保険労務士の鶴木です。

労働衛生基準は、一言で言えば「働く人の健康と安全を守るための最低限のルール」です。
労働安全衛生法、労働安全衛生規則、事務所衛生基準規則などに定められており、企業規模に関係なくすべての事業者に遵守義務や努力義務があります。
たとえば、照明の明るさ、トイレや更衣室の設置、室温や湿度の管理、有害物質の対策など、日常の「職場の当たり前」を支えるものが多いです。
しかしながら、「整っていて当たり前」と思われるがゆえに、逆に点検や改善が後回しにされている現場も少なくありません。

直近の改正である2021年の労働衛生基準改正は、一見細かい規則の修正と思われがちですが、実は職場の安全と働く人の健康を守るための重要な転換点となる内容が含まれています。私は特定社会保険労務士として、長年に渡って労働現場の実務に携わり、医療機関や教育現場、民間企業での経験を踏まえ、改正の背景とポイントを現場の視点から解説したいと思います。北海道小樽という土地柄もあり、労働環境の実情を踏まえつつ、経営者や担当者、そして従業員の皆様に実際に役立つ知識をお届けします。

まず、改正の大きな特徴は「労働衛生基準の形骸化への是正」と「現場の安全配慮の実効性向上」を目指している点です。労働衛生基準は、労働安全衛生法や関連規則に基づき職場の環境を一定水準で維持するために最低限守られるべきルール群ですが、小規模事業所を中心に、設備や環境面で基準が徹底されていない、あるいは老朽化した感覚が常態化し、制度と現場の乖離が課題でした。

2021年改正にはそうした「慣れ」や「見えづらい違和感」を乗り越え、真に働く人の健康と安全につながる基準を明確にしようという意図があります。

具体的に注目すべきは三大改正項目です。【1】照度の基準見直し、【2】トイレ設置基準の改定、【3】休憩室等の休養施設の整備に関する規定強化です。

まず照度基準の改正は非常に実用的かつ影響が大きいものです。従来の作業照度は一般作業で300ルクス、付随作業で150ルクスが目安でしたが、最低限度の照度として設定されていた70ルクスが150ルクスに引き上げられ、高齢者や視力が落ちる方も安全に作業を継続できる環境整備が義務化されました。実際、私が関わった大学の研究室や事務局で、照度不足による書類の誤読や設備の不備、転倒事故のリスクが時折指摘されており、照度計の活用で数値的根拠を示すことが職場の納得感を生み出します。これは単なる法律遵守だけでなく、実態に即した安全管理の先進的な一歩と言えます。

次にトイレの設置基準も改正点が非常に現場目線です。原則男女別とされる中で、同時に働く人数が10人以下の小規模事業場では、「独立個室型」であれば男女共用でも認める緩和措置が明文化されました。ただしここで重要なのは、独立個室型つまり壁や扉で完全に囲われていること、内側から施錠可能なことが条件であり、これによりプライバシーと安心感を確保します。北海道の小規模施設では古い仮設トイレが使われているケースも少なくなく、衛生状態や心理的快適性の向上が採用や職場定着にも大きな影響を与えるため、ぜひ経営者はこの点を見過ごしてはいけません。トイレは単なる衛生設備ではなく、職場環境の「顔」であり従業員の満足度を左右する重要ポイントです。

最後に休憩室・休憩所設備の整備に関する改正は、従来から常時50人以上の事業所(女性は30人以上)に男女別の休憩設備設置を義務づけてきましたが、新たにプライバシー保護のためのシャワー設備の設置および、休養室・休養所の随時利用可能性といった点が求められています。これにより疲労回復や日々の健康管理が促進され、職場の生産性アップや働きやすさの向上に直結します。私の経験上、こうした環境整備が進んだ施設では従業員の離職率が低下し、長期的な人材確保に役立っている実例が多く確認されています。

これらの改正は全体として「コストではなく投資」として捉えるべきもので、健康経営の観点でも注目されています。経営者が労働衛生基準の遵守に積極的になることは、労災やクレーム、労務トラブルの未然防止にもつながり、結果的に経営の安定化を促進します。

現場での活かし方としては、私が講演や企業訪問で行うように、まずは現場の環境を実際に数値化することです。例えば照度計で測定した結果を共有し、目視や感覚だけでなく「客観的なデータ」で現場の照明環境の改善を提案すると、納得度が高まります。また、トイレや休憩施設についても、従業員の意見をヒアリングし「あるべき姿」と現状のギャップを丁寧に言語化して共有することで、小さな改善から大きな変化へとつなげやすくなります。

2021年の改正は、それまでの労働衛生基準を単なる「守るべき法律」から、「働く人の健康を守るための具体的な行動指針」へと昇華させた意義深い法改正といえます。私はこれからも、北海道・小樽の地で、現場の声を聴きながら「慣習」による盲点を指摘し、企業が未来に向けて持続可能な労働環境を作るお手伝いをしていきたいと考えています。労働衛生基準の遵守は決して重い負担ではなく、明るく健康的な職場づくりの土台です。ぜひ皆様もこの機会に、2021年改正の核心ポイントをしっかりと押さえ、実務に生かしていただきたいと思います。

2025年法改正の熱中症対策…企業が知るべき新たな義務

令和7年(2025年)6月から施行された労働安全衛生規則の熱中症対策に関する改正は、企業の安全衛生管理において極めて重要な節目となりました。異常気象の常態化や全国での熱中症による労災・死亡災害が年々増加する現状を踏まえ、法改正は単なる指針ではなく、「企業における熱中症リスクの予防と初動対応を体系的に義務化する」ことを目的としています。特に屋外作業や高温環境下での作業が多い建設業、製造業、運送業などでの対応強化は不可欠であり、これまでの安全衛生管理の在り方を見直すことが求められています。

まず、この法改正で最も注目すべきは「報告体制の整備と初期対応のマニュアル化・明確化」の義務化です。熱中症の兆候が現れた従業員やその異変に気付いた者が、どのような手順で誰に報告すべきかをあらかじめ規定し、社内で周知徹底しなければなりません。これまで「声を上げづらい」「対応に迷う」といった問題点が多数報告されており、早期の声掛けや対応が遅れた結果、症状が悪化してしまうケースが少なくありませんでした。今回の改正は企業の責任を明確にするとともに、労働者が安心して働ける環境づくりを促進するものです。従業員が不調を訴えること自体が忌避されない空気づくりが、この制度の根幹にあります。

加えて、熱中症の恐れがある作業中に取るべき初期的措置を、詳細に作業場ごとに定めて周知することも義務となりました。作業者をすみやかに作業から離脱させ、冷却措置を施し、必要に応じて医療機関の受診を確実に行うためのフロー構築が企業に課せられています。これは単に規則を守るための手続きではなく、実際に「倒れてから慌てる」ことなく、安全確保のための行動基準を共有し、緊急時のリスクを最小限に抑える仕組み作りです。現場管理者や同僚、そして労働者自身が迅速に動けるように明文化された対応案内は、命を守るための大きな武器となります。

さらに、本改正は暑さの定義にも具体的な数値基準を設けている点に特徴があります。気温31度以上、またはWBGT(暑さ指数)28度以上の高温環境下での長時間作業は、熱中症対策をより重点的に行うべき対象と明示されました。これにより、以前は曖昧だった「暑い日は注意」という精神論を数値化し、タイムリーかつ合理的な現場対応が促進されることになります。こうした数値基準の導入は、体感温度や感覚に頼らず客観的に「熱中症リスクの高い状況」を特定でき、対策の抜け漏れを防ぐ有効な手段になるのです。

現場での具体的な対策例としては、「バディ制」という二人一組で互いの健康状態を観察し合う仕組みが推奨されています。これは私自身の趣味である登山活動にも通じる考え方ですが、互いに声をかけ合い、小さな異変も見逃さず対応することで、熱中症の早期発見につながります。またウェアラブル端末の利用もこれからの潮流です。体温や心拍数をリアルタイムで計測し、危険値に達した際にはアラートが出せる仕組みは、高度な安全管理に役立つと期待されています。こうしたIT技術の活用は、中小企業でも比較的低コストで導入可能となっており、効率的な熱中症管理を実現します。

さらに職場における緊急対応設備の充実も欠かせません。冷却グッズとして保冷剤や冷感タオル、スポーツドリンク、塩飴など常備や、緊急連絡先の明示なども求められています。これらは一見、小さな配慮に過ぎませんが、こうした「小さな気遣いの積み重ね」が重大事故の発生を防止し、従業員の安心感向上につながるのです。

私は特定社会保険労務士として長年、北海道の公的機関や国立大学での労務管理に携わってきました。その経験から痛感するのは、熱中症などの労働災害は予防と早期発見・対応の体制がなければ避けられないということです。今回の法改正は、企業にとっては厳しい義務となりますが、従業員の生命を守るだけでなく、結果的に労務トラブルの防止、企業の信頼維持、生産性向上にもつながります。是非この機会に現場の声を丁寧にヒアリングし、現場に即した報告体制や対応マニュアルを整備していただきたいと強く願います。

安全衛生の取り組みは単なる法律遵守で終わらせては意味がありません。熱中症対策は、従業員一人ひとりを想い、真に「労働者の命と健康を守る」ための内実ある制度運用こそが肝要です。私のモットーである「あきらめたら試合終了ですよ」を胸に、温度・湿度の見える化、コミュニケーションの促進、最新技術の活用を通じて、皆様の職場環境改善に寄与していきたいと考えています。

現場の実例から学ぶ労働衛生基準・熱中症対策の実践方法

労働衛生基準や熱中症対策は、法律や制度だけでは現場に根付かず、実際の職場環境に即した具体的な対応が求められます。私はこれまで国家公務員として北海道大学をはじめ、多様な教育・医療関係の現場で27年以上労務管理に携わってきました。その経験から言えるのは、「現場の声に耳を傾け、実態を把握した上で、わかりやすく伝え、具体的な改善行動へ結びつけること」が何より大切だということです。本稿では、労働衛生基準と熱中症対策において、私が関わった実例をもとに、法律の運用が現場でどのように形になり、問題解決に至ったかを紹介します。

まず、労働衛生基準に関連する課題で最も多いのは「慣れとあきらめ」です。例えば、ある中小規模の製造現場で、照度不足や古く不便なトイレ環境が放置されており、従業員からも「まあこんなものか」という反応が続いていました。こうした状況は、長年同じ環境で働き続けた結果、違和感が鈍化している典型例です。実際に現場を訪ね、照度計で数値を測定して見せたところ、「数値で見える化」した効果は絶大で、経営層も一気に具体的改善に動き出しました。トイレの独立個室型への改修も含め、環境整備により従業員満足度と職場の士気は明らかに向上し、結果的に離職率の改善にもつながりました。

また、照度の改善事例では高齢者の作業効率と安全性に直結するため、労働衛生基準の数値基準が現場での説得力を増す重要な要素となりました。具体的には、300ルクスの一般作業基準に加え、高齢や視力に不安がある人にも安全に作業できる環境づくりが、ミスや事故の減少に結び付きました。照度不足による転倒事故が減った実例は、安全衛生委員会でも共有され、結果的に従業員の健康意識向上にも寄与しました。

熱中症対策に関しては、2025年の法改正により報告体制の整備と初期対応マニュアルの義務化が進みました。私が支援したある建設現場では、以前から夏季の暑さが厳しく熱中症リスクが高かったものの、具体的な報告ルールや対応手順がなく、万が一の際は個人の判断に委ねられていました。そこで「バディ制」を導入し、二人一組で作業中に相手の異常症状を観察し合う体制をつくりました。また、作業基準に基づきWBGT計測を行い、閾値超過時は作業時間短縮やこまめな水分補給を義務化。さらに、万一の対応マニュアルをわかりやすく作成して掲示し、緊急連絡先や冷却グッズの手配も徹底しました。これにより、現場スタッフは熱中症の兆候に早期気づき対応できるようになり、事故ゼロを継続しています。

加えてウェアラブル温度センサーなど最新技術も積極的に導入した事例があります。リアルタイムで体温や心拍をモニタリングし、リスク検知時に管理者へ自動通知が届く仕組みは、特に屋外作業が多い事業所で重宝しています。こうしたIT活用により、膨大な暑さデータの蓄積や分析も可能となり、科学的根拠に基づく作業計画や休憩管理の改善へとつながっています。

私の経験上、労働衛生基準の遵守や熱中症対策は単に制度を「守る」だけでは不十分で、継続的な現場との対話や関係性づくりが必須です。たとえば、現場巡視を定期的に行い「今日は暑いね」と雑談をかわしながら従業員の体調や環境の変化を見逃さないこと。制度が形骸化しないよう「小さな違和感」を拾い上げ、経営側と現場の間をつなぐ橋渡し的な役割を果たすことが社労士の使命と心得ています。

もちろん職場によって状況は異なりますから、一律の対応でなく「職場特有の問題=慣習や設備のクセ」を見極めた上で、測定機器のレンタル・導入や意識改革研修など多角的にアプローチすることが効果を高めます。さらに、熱中症対策では作業員が「声をあげやすい環境」を整え、異常の早期発見・対応が確実に機能するよう体制を整えることが最重要課題です。

以上の実例から言えるのは、労働衛生基準や熱中症対策の真価は「現場のリアルな課題を数値や制度で見える化し、対話を通じて改善に結びつけること」。これにより労働者一人ひとりが安全かつ健康に働ける環境が醸成され、結果的に企業の生産性や採用競争力向上にもつながります。 北海道小樽の地で開業して間もない私からの一言としては、「あきらめずに現場と向き合い、制度の力を最大限に引き出すこと」。どんなに法律が整備されても、実務で使いこなせなければ意味がありません。私が現場で感じているのは、小さな改善の積み重ねが大きな成果につながるということ。熱中症対策はもちろん、労働衛生基準の遵守による安心安全職場づくりは、皆様の企業経営にとってかけがえのない宝になるはずです。

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